家を売るにあたっていちばん難しいことは、売ることそれ自体よりも、今現在の下落した土地の価格に自分自身が納得するということだと思います。
いくら相続した土地で、私がお金を出して買った土地ではなくても、自分の育った土地と家ならば、誰にでも愛着があります。
そこへきて、値上がりしてしかるべき土地が、買値よりはるかに低い値段でなければ売れないとなると、どうしても気が進まず放置しがちになります。
しかしそうしている間にも、地方は人口減るばかり。
迷っている間にも維持費と固定資産税がかさむだけとなります。
そして、もっと悪いことにはどんどん需要が減って、ついには値段をどんなに下げようが、ほんとうに「売れない」ことになってしまう時が来てしまいます。
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叔母の土地の場合
私の場合は親から相続した土地でしたが、同じ数百戸の団地内に、母の妹家族の家がありました。
私の両親がその団地に家を建ててまもなく、姉妹で近くに住みたいと思った叔母が、うちから数分の距離のところに土地を買って引っ越してきたわけです。
震災後まもなく家を取り壊して更地にし、やがて利便性の良い平地に年老いた舅姑と同居するようになり、3人の息子たちは結婚し、それぞれ遠方に住まいを持ったため、土地を売りに出すことになりました。
最初の値は500万円でした。買ったときは1千万円の土地です。売れないので300万円になりました。ネットの不動産サイトで見ていると、更に下がって200万円になりました。
それでも、誰からも問い合わせすらありませんでした。今の住まいの他に、年間5万円弱の固定資産税と草取りに、ただ年数だけが過ぎていきました。
叔母は土地が売れないのを知っていたので、「無料(ただ)でもいいから知り合いにやるように」夫に言いましたが、夫は納得しませんでした。
相続したのとは違い、初めて自分が買った土地です。当時叔母夫婦は20代、まだ給与がそれほど高くない時代に、ローンを組んで長年自分で支払った上で手に入れた土地を、「ただで」人にやろうとは、その土地を買った時には夢にも思わなかったことでしょう。
売れないのはあなたの土地のせいではない
叔母は土地それ自体が、角地でもなく東向きで、階段を上らなければ家に入れないこともあって、あまり良くない土地だから、とも言っていましたが、売れない理由は、個々の土地の条件が悪いためではありません。
人口が減少している地方の土地は需要がない、ただそれだけなのです。
私も含めて「親が悪いところを買ったので子どもの私が苦労する」と持ち主は往々にして自分の側に理由を求めますが、けっしてその土地が悪いわけではない、30年前は空き地なく埋まっていた数百戸が集まった住宅地なのです。
持ち主側の理由ではないのです。
どうしても、思うように物事が進まないとき、人は物事に原因を求めたがるので、自分の側の理由にしてしまいます。
それによって売れない理由がつけられると、その瞬間はまがりなりにも心が落ち着くからです。
しかし、誤って考えていては、物事が進みません。
悪い土地を買った自分の側に理由がある、そうして自分を責めるということは、いまだに買った時の価格に固執しているということなのです。
そのことに早く気が付いて、考えを転換すべきなのです。
値段にこだわらくなった途端に売れた叔母の土地
しばらくぶりに遊びに行った際、実家の土地が売れたことを私が言いましたら、叔母は
「他に何の思い煩うこともないが、空いた土地のことだけが気がかりなのよね。子どもは他に家を買ったから不要なので、相続の時に残ると困るだろうし。自分も何とか処分したいので、その業者さんを紹介してくれない?」
と言いました。
ところが、叔母の旦那さんが渋っているというのを聞いて、私はネットを使った土地の売却の方法を教えました。叔母はそのためにパソコンを買いました。
そのうち、ずっとつき合いのある友人夫婦に、土地を売りたいことを茶飲み話に話しました。
その友人とはつき合いは長いので、もちろん空いた土地があることは前から話していたと思います。
しかし、今回は叔母はネットで買いたい人を探していること、そしてたぶん同じ団地の姪がいくらで売ったという話もしたのだろうと推測します。
友人は、その値段で土地が買えるのが確かな話だとわかり、それを知るとそのくらいなら投資目的で買いたい、ということで、すぐさま話はまとまりました。
私が土地が売れたということを叔母に話してから、ほんの数か月でした。
結局、叔母は私が教えたネットの方法をたいして試したわけではありませんし、私が買いたい人を紹介したわけでもありません。
売れたのは、実際に売却を終えた私の話を聞いて、叔母夫婦の意識が変わった、ただそれだけです。