土地の所有権放棄に関して、12月頭に「土地の放棄ができる」との報道があり、喜んだ人も少なくなかったと思います。
ところが、京都大学教授の潮見佳男教授は「原則として土地所有権は放棄できない」と言っています。
いったいなぜなのか、朝日新聞の記事よりお伝えします。
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土地に関する法律の試案
要らない土地は放棄できるという土地の所有権の放棄に関して、「土地の放棄ができる」との報道があったのは12月の最初のことです。
土地の放棄について決めているのは、土地に関する法律の整備を検討している法制審議会というところです。
土地の放棄について
法制審議会は、12月にその法案の骨子をまとめたのですが、内容は大まかに言って、下の4点でした。
・相続登記の義務化される
・要件を満たせば、個人に限って土地の放棄ができる
・遺産分割が行われなくても相続ができる
・隣接する土地が所有者不明の土地でも活用や利用ができる
そして、この中の、「要件を満たせば、個人に限って土地の放棄ができる」を見て、どうやら、土地の放棄ができるようになるのではないかというのが、これまでの見方であり、売れない土地を抱えている私たちにとっては、期待が湧くものであったのです。
結局土地の放棄はできない
昨日1月25日の朝日新聞には、それを否定する意見が掲載されました。
上の部会の委員である、京都大学の潮見佳男教授が下のように述べた部分がそれを伝えています。
「原則として土地所有権は放棄できないと理解するのが妥当だ」
試案においては、「要件を満たせば、個人に限って土地の放棄ができる」というもので、この要件が、私たちは、たとえば「売れない」とか「誰も住まない」とかの要件を想定するとすると、そういうことではなくて、審議会の設定する要件というのは、もっと厳しいものなのですね。
土地放棄の条件の例
朝日新聞で挙げられている、その要件の例は下の通りです。
・境界が特定されている
・所有者以外に占有者がいない
・崖地などではなく土地管理が容易
・所有者が審査手数料や一定の管理コストを支払う
・売る努力をしたが売れなかった
これらの見る限りでは何となく、要件を満たして放棄が可能であるように思うのですが、どうも、そうではなさそうなのです。
なぜ土地の放棄ができないか
なぜ土地の放棄というのは、それほどまでに困難なのでしょうか。
土地に関する法律制定の理由
そもそも、今回の法律の試案は、
(1)所有者不明土地をこれ以上発生させない予防策
(2)現在の所有者不明土地を利活用する対策
という所有者不明土地への予防や対策として考えられているものなのであり、土地を所有する人の便宜を図るものではないのです。
あくまで、所有者不明土地が焦点となるので、そのため、土地管理が厳しくなるだけだと思われます。
相続登記は義務化される
それどころか、今まではしなくてもよかった相続登記の義務化が決まれば、相続放棄をしないで放っておけば、いつかは土地は自分のものではなくなるという望みは全くなくなることになります。
要するに、相続登記が義務化されれば、固定資産税は支払わざるを得ず、土地の管理も引き続き行っていかなければなりませんし、土地は代襲相続によって、次代に必ず引き継がれることになります。
すなわち、相続人の子どもから孫へと土地の所有者が変わっていくだけで、放棄はできないことになってしまうのです。
土地放棄ができない理由
朝日新聞には、土地放棄を認めない理由は次のように記されています。
安易な土地放棄を認めると、個人が負担すべき土地管理の費用を国に転嫁し、土地を適切に管理しなくなるモラルハザードを生む恐れがあるためだ。
つまり言ってみれば、土地を買うだけ買って、要らなくなったら国に押し付けるという前提での土地放棄を認めると、そららの濫用が進むことになってしまうというのが理由です。
地方の土地放棄が激増で荒れ放題に?
そもそも、土地の放棄が可能であれば、地方の土地は、ここも放棄、あちらも放棄、ということになりかねません。
過疎地は住んでいない土地はほとんどが誰のものでもない土地ということになって、国も手が回らず、多量に放置された土地が荒れ放題という結果を招いてしまうでしょう。
売れない土地を持つ人にとっては、大変残念な方向ではあるのですが、これを読むと致し方ない事にも思えます。
要らない土地は売却するしかない
要らない土地は、とにかく自分で欲しい人を見つけて、売るしか手立てがありません。
そして、相続登記の義務化が行われればこれまで以上に、要らない土地を所有する人が増えることになるでしょう。
そのためには、早めの売却、または相続放棄など、知識と準備がますます必要になります。
土地余りの時代になってしまったわけで、もはや土地は高くは売れません。
売れない土地は確実に資産を減らします。相続によって次代に負担が増えないうちに手放すことが肝要です。