昨日日曜日の朝日新聞「終活を考える」に遺言書の例が載っていました。家族のためにと思って遺言書を作った。ところが、遺言を作成しために、かえってトラブルが起きてしまったという事例でした。
それらの事例から、正しい遺言の仕方を考えてみます
スポンサーリンク
手書きの遺言書を遺した例
80代男性のAさんは、妻が亡くなった後に長男一家と同居、次男夫婦とは交流がないため、家は長男に住み続けてほしいと思いました。
そこで、自分の意思を遺すため遺言書を作成しました。自宅は長男に与えたいと、遺言書の中に明記しました。
念のために言うと、場所は「都内」となっていますので、土地が売れない地方のことではありませんで、十分資産価値のあるところと思ってください。
また、Aさんには家土地以外の資産、預貯金などはそれほどたくさんありませんで、不動産が唯一の財産でした。
Aさんは安心して亡くなりましたが、亡くなった後に、次男が同居をしている兄に対して、
「兄貴が自分で相続できるように、父さんに無理に遺言書を書かせたに違いない。自分も遺産をもらいたい。法律分の2分の1は受け取りたいので、自宅を売却して半分分けしたい」
と言ってきたのです。
当然、お兄さんは父親がせっかく書いてくれた遺言書を無効にはできず、兄弟は喧嘩となってしまいました。
争いにならないようにと、Aさんはせっかく遺言書を描いたのですが、この場合はどうすればよかったのでしょうか。
アドバイス:公正証書遺言にする
自筆遺言書は誰にも知られずに作れますが、誰かに意図的に作られたともおもわれがちです。
公正証書遺言でもその点は実は同じなのですが、作成した書面は、自筆ではなく、タイプ、印刷され、公証人や他の人の名前、自筆の署名と印鑑などが入るので、印象は大きく違います。
父と兄とで相談しながら二人で書いた、というものではなく、他の人や専門家も入った公式な物、きちんと作成されたものという印象になります。
内容についての「付言事項」を記す
「付言事項」というのは、内容についての理由です。
たとえば、Aさんの場合なら、長男は自分や妻と同居の上、長男の妻とも協力して、長年世話になったなどということを書き記すことができます。
それを読めば、お互い納得できるケースが圧倒的に多くなるでしょう。
他にもある公正証書遺言のメリット
遺言書を効力があるものとするには、きちんとした書式で記さなければなりません。
自筆遺言書というのは、せっかく書いても、不足や書き漏れが出て、遺言書として効力がないものとなってしまうことがひじょうに多いです。
たとえば、署名がない、日付や押印がないなどの基本的なことから、預金通帳の番号など、資産の記載漏れなどがあることも多いのです。
「家土地を長男にやる」とだけ記した場合には、弟がその他の預貯金を全部受け取るのか、それとも、その分を多く受け取るのかもわかりません。
また「譲る」「与える」「やる」など、正しくは「相続させる」以外の文言が問題になることもあります。
遺産の種類や内容が複雑な場合は、専門家を頼んで作成するのが無難です。
公正証書遺言は、費用はそれほど大した金額ではなく、のちに書き直しもできます。自宅が火災や災害などの場合も、公証役場にきちんと保管されるので、紛失の心配もありません。
公正証書遺言を作ったが争いが起きた例
80代のBさんは一人暮らし。近くに住む三女が面倒を見てくれています。長女と次女は離れて住んでいるため、入院した時も見舞いには来ません。
そこで、Bさんは三女に財産を残したいと考えました。しかし、争いが起こるのを恐れたBさんは、遺産は3人で平等に分けるようにという内容で公正証書で遺言書を作成しました。
それを子供たちに伝えたら、姉妹間で言い争いになってしまったのです。三女の言い分は
「お姉さんたちは、母のために何もしなかった。私は買い物を届けてあげたり、病院の通院をしたり、入院の手続きをしたりしたのに、なぜお姉さんたちと同じ金額になってしまうのか」
ということでした。
アドバイス:遺言書を作成したことを相続人に伝える必要はない
遺言書というのは、あくまで自分が亡くなってから後のために書くことです。
Bさんの場合は、遺言書を作成したことを言うべきではありませんでした。
黙っていれば、死後に開封され、少なくてもBさん自身は生前に争いを見ることはなかったでしょう。
特定の子に世話になった場合
介護ということになりますと、皆が平等に介護にあたるという例は、ほとんどありません。どうしても近くにいる人、または誰か同居をした人一人だけに負担がかかることになります。
その場合は、世話になった子どもには、応分の配慮をするのが一番良いことだと思います。
その際、遺産を多めに分けると遺言に記しても良いのですが、争いになる恐れが強いというような場合には、遺産分割とも別な方法も考えられます。
他の方法としては、死亡保険金の受け取り人に三女を指定する、または生前贈与とするなどです。
あるいは、遺言に書き遺したいのであれば、姉二人に対しても、遺言書があっても受け取れる遺留分の配慮をするなどが、争いを未然に防ぐ方法として考えられます。
まとめ
せっかく書いた遺言書が役に立たなかったというのはもったいないことです。
また、遺言を書く際に考慮しなければならないポイントも様々です。家族状況によっては、方法や手立ても様々ですので、専門家に相談することも視野に入れてください。
自分の死後に子供たちが互いに疎遠になってしまうようなことがないように、そして、何よりも高齢になってしまうよりも前の、判断がきちんとつく間に手続きを進めることが肝要です。