スマートデイズ社の運営する女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」のスルガ銀行の不正融資問題で、社員の内部告発の文書を受けて、事態を重く見た当時の副社長故岡野喜之助氏が融資の中止に至りました。
ところが、そのような措置が取られたにもかかわらずシェアハウスへの融資は継続されました。
誰がなぜ、どのような次第でシェアハウスへの融資を続けたのかをまとめます。
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融資の継続は横浜東口店支店長
副社長からの即座の口頭の指示があったにも関わらず、取引と融資を継続したのは、横浜東口店の支店長でした。
その際の横浜東口支店長の言い分は「副社長の指示を、スマートライフがスルガ銀行の融資に直接的に関与する(スマートライフが投資者に土地を売ること)ことが禁止されたものと理解したと説明」(第三者委員会報告書)とある通り、「別の不動産業者を経由させれば、副社長の指示には反しない」と考えたといいます。
なぜ、スマートライフではいけないと考えた、と釈明したのかというと、実質的な経営者に詐欺の前科があったためです。
ところが、そもそもスマートライフの取引を最初に始めたのも、横浜東口支店であり、第三委員会はこれを「その後スマートライフの名前を出さないようにするなどの工作をしているので、取引禁止の趣旨を実は正確に理解したものと推認される」と但し書きをしているため、何もかも十分承知の上と考える方が自然でしょう。
スマートデイズが社名を変えて取引
そして、スマートデイズは、ダミー会社「アマテラス」と社名を変え、その折に上の支店長はさらに「スマートデイズ社を告発した者が、『被害届を取り下げた』とする書面を勝手に作りあげ、行内に送っている」と毎日新聞は書いています。
この前後については記事を読んでもよくわかりませんが、つまりスマートデイズについて、被害届が出されていて、それが役員会議でも取り上げられたが、「それは無効になりました」ということを、支店長が偽の書面をもって主張したということではないかと推測します。
他に同支店長がしたことは、スマートデイズ社の総代理店のような立場の不動産業者を仕立て、その業者を経て多数の不動産販売業者を仲介させ、スマートデイズ社の物件であることを隠す方法でした。
案件を不動産業者に振り分けることで、元の会社名の名前を出さないようにしたわけです。これが上記の第三者委員会の調査報告書が指摘する部分と思われます。
取締役会議の方は、融資の中止を主張したわけですが、支店長側の方は、あらゆる手段を使ってそれを潜り抜けた。
しかしその辺はやはり会社ですので、いくら支店長クラスの人が一人が頑張っても、どうにもならないはずでした。
スルガ銀行営業部でパワハラ
しかし、実際に融資の審査を通す段になって、強力な助っ人が現れました。それが今では「パワハラ」ですっかり悪名高くなった麻生治雄専務執行役員という人物です。
16年5月には、審査部の部長は、営業担当の麻生治雄・専務執行役員(当時)に入居率の確保が明らかに困難な埼玉県の物件について「承認すべきでない」と申し入れました。
麻生治雄の「シェアハウス会議」
麻生氏はこれを受け、シェアハウス融資を扱う営業本部と審査部の担当者を集めて「シェアハウス会議」で話し合いに持ち込もうとしたようです。
しかし、その会合では「競合物件が出やすく、家賃がアテにならない」「空室リスクも高い」「購入者がリスクを承知していない」といった懸念が次々に指摘され、融資を限定的に、また慎重に審査を行うことが決まったといいます。
麻生氏の会議の目的はシェアハウス融資についての合意を得ることでしたが、それが裏目に出てしまった。
そのため、麻生氏は審査部に直接働きかけることで融資をさせるという行動に出ました。
麻生氏が審査部を恫喝
審査で問題点を指摘する担当者に、「ふざけるな」などと脅しをかけたのを皮切りに、ほぼ毎日審査部門に顔を出し、担当者が疑問をさしはさむと「何言っているんだ」と怒る。
また、審査担当者が資料を確認しようとすると、すかさず「なぜ現場を信じられないのか」「何をこそこそやっているんだ」と、それを差し止める、
担当者は困って部長に話を持ち込むも、最終的には麻生氏が審査部長を「この野郎」などと恫喝(どうかつ)。
以前には、疑問を感じた審査部の部長をわずか1ヵ月で「審査が遅い」として交替させたというのですから、誰も何も言えなくなってしまったようです。
そのうち、09年度ごろは80%台の承認率が、14年度下期以降は99%、ほぼすべてが麻生氏が承認しているため「協議ずみ」と告げられて、そのまま審査を通過。審査とは名ばかりの、実質的には審査なしの状態になってしまい、それがシェアハウスの破綻まで続きました。
麻生氏は岡野喜之助副社長の腹心
なぜ麻生氏がそこまで権勢をふるったのかというと、岡野喜之助副社長に目をかけられていたからのようです。そのため、本来は権限のない審査部門の人事も意のままにできたのです。
岡野会長ではなく岡野喜之助副社長が実務においてスルガ銀行のトップであり、そのトップが営業とそこまで懇意であったために、審査部よりも営業が強いといういびづな社内体制が出来上がってしまっていたのです。
第三者委員会の報告書が、麻生氏に業務権限を集中させる体制を作り上げた岡野副社長の責任が「最も重い」とするのはそのためです。
まとめ
銀行という大きな組織ですから、一つの案件に関わる人の数は一人や二人ではありません。
途中で歯止めになるだろうというところは、たくさんあるのがむしろ普通のことなのです。
そうならなかったというのは、トップから末端まで、皆が足並みを揃えたからこそできたことです。
シェアハウス問題は、銀行という組織が誤りを犯すことの恐ろしさを身に沁みて感じる出来事でした。