広告 積水ハウス事件

積水ハウスの報告書の内容 地面師事件その後の示すもの

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積水ハウスが地面師に55億円をだまし取られた事件で、以前から取りざたされていた報告書を東洋経済誌が入手、その内容が明らかになりました。

裁判所からの提出命令に対しても、積水ハウスが公開を拒否、内容に隠さなければならないことがあるのか、これまで謎となっていたものです。

地面師事件のその後と、積水ハウスの調査報告書の内容についてまとめます。

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積水ハウス地面師事件とは

積水ハウス地面師事件、地面師事件とは何かを一言で説明すると、土地の売買と登記の制度を利用して、地面師と言われる詐欺グループが、その代金をだまし取ったというものです。

騙された金額が55億円というもので、巨額の詐欺となります。

地面師が五反田の土地の売却を装う

https://www.google.com/maps

舞台となった土地は、品川区五反田にある「海喜館(うみきかん)」という旅館跡地。

駅から数分という立地の良い場所で、しかも600坪というまとまった広さの土地であり、ビルやマンションが建設できるだけの十分な広さがあります。

それまでも不動産業者や建築会社なら、誰でもが欲しいと思っていた土地でした。

今はこの土地は、旭化成レジデンスが取得しました。世間が地面師事件で紛糾している最中に契約が進んでいたと見えます。

地面師が旅館の所有者になりすます

その土地の容疑者に成りすました地面師グループ積水ハウスとは、土地の売買契約をしました。

旅館の女将役である羽毛田正美(64)、不動産コンサルタントを名乗るカミンスカス操容疑者、夫役の常世田吉弘(68)ら、そして、その土地の取引を積水ハウスに持ち込んだ会社であるIKUTAの実質的な経営者らがその主な立役者です。

土地の所有者は他にいるわけですが、偽物の羽毛田正美が「私が所有者です」と言って、土地を売ってお金を受け取ったわけで、その際の被害額は、55億円に上るという大変なものでした。

「なぜ積水ハウスが地面師に」の疑問

買った相手は積水ハウス。誰もが知る大手住宅メーカーがなぜ、このような詐欺事件に引っかかったのかということは、誰もが感じる疑問だったのです。

そして、積水ハウス内で、どのような経緯で取引となったのか、誰が誤ったことをしたのかを調べるために、社内で作られたのが、地面師事件の調査報告書です。

 

積水ハウスが調査報告書を作成

この調査報告書、公認会計士や弁護士ら4名の社外監査役取締役で構成する調査対策委員会が、数ヶ月かけて作成したという公平なものです。

しかし、せっかく出来上がったこの調査報告書は、現経営陣が公開を拒んで極秘扱いとなり、会社の外には地面師事件の次第は全くわかりませんでした。

積水ハウスが報告書を公表しない理由

この報告者が公開されない、つまり、隠されたのには、都合が悪いことが書かれていたのではないかということで、これまで報道各誌が独自に報告書を入手し、内容を伝えています。

結論を先に述べると、積水ハウスが地面師事件の被害に遭ったのは、単なる過失ではないということです。

調査委員会が述べるに、積水ハウスの内部の特定の人物が、意図的に契約を成立させたという疑いがあるといいます。

「個人的で不適切な関係」の報告書の箇所

それを示すのが

「IKUTAの経営者とA次長との間には、何か個人的で不適切な関係が存在していたのではないかとの疑義が出た」

という報告書の箇所です。

というのも、IKUTAの経営者は、土地の仲介で10億円を受け取ったが、積水ハウス側はそれを返還しろとの申し出を行っていないからです。

積水ハウス側で土地取引に関わった人物2名が誰かということも、調査報告書の中では明らかになっています。

報告書に見る積水ハウスの契約の流れ

土地の売買契約に至る経緯を報告書から追ってみます。

IKUTAが土地情報を伝える

まず、IKUTA HOLDINGS イクタホールディングスという会社の実質的な代表者が、パーティなどを通じて知り合った積水ハウスの東京マンション事業部営業次長Aに、該当の土地の情報を伝えました。

A次長は、なりすましの羽毛田正美の偽造パスポートと印鑑、印鑑証明と公正証書による本人認証を確認して、その土地を買う契約を進めることとなったといいます。

積水ハウスが本人確認に「慎重さを欠いた」理由

パスポートと印鑑、印鑑証明と公正証書、素人の人なら、そう聞くと一見問題はないように思えます。

しかし、これらの書類は偽造することが可能なものです。

そのためそれらの書類、特に公正証書については、元々本人確認のできるものとは考えられていないというのが、土地取引のプロの判断となるそうです。

積水ハウスの社員ならそれを知らないはずがありません。

しかし、A次長は「明らかに慎重さを欠く判断で」(調査報告書)その取引を進めてしまったということです。

平たく言うと、このA次長という人物は、ろくろく本人確認もしないで、63億円の土地を買うことにしたのです。

「買うことにした」のではなくて、「会社に買わせることにした」とするとはっきりするかもしれません。

なぜ、本人確認を”怠った”のか? それは、きちんと確認すれば別人だということがわかるからだったからかもしれません。

五反田の土地売買が社長案件となる

次にこの話は会議にかけられて、その後は社長案件ということになり、誰もが異議を挟まずに進められることとなりました。

通常は社長の前に、マンション事業本部、不動産部で審査を受けてはじめて社長に届くものが、社長決裁が20日、会議者の審査は24日と順番が逆になった。

とはいえ、社長も何も見ずに判子を押したわけではなく、その前に問題の土地を視察に行っています。

そこに同行したのが、Mマンション事業本部長、A営業次長と並ぶ、今回の”取引の当事者”のうちの1人です。

社長の同意を得て、そのようにハイスピードで話は進み、その後、積水ハウスは地面師らと共に偽の女将と土地の契約にいたります。

土地契約の途中にIKUTAが社名変更

しかし、このような大切な土地取引のさなかに、仲介に入ったIKUTA HOLDINGSは、会社名を変更。

ここで会社名が変わるというのもおかしなことですが、これもそのままになり、積水ハウスは手付金14億円をIKUTAに支払って、その後の仮登記を行いました。

本物の海喜館所有者からの連絡を無視

そこで、土地の本当の所有者から「当方は売買契約を交わしていない」つまり、自分が本物の所有者だという連絡が再度入ります。

調査報告書では、計10通の文書が届いたというのです。ここで、積水ハウスの顧問弁護士は、所有者の確認を行うべきだと提案。

しかし、積水ハウス側は”怪文書”とこれを判断したというのです。

地面師の偽女将のサインで所有者確認

そして、その際に偽物の所有者である羽毛田に「自分以外に本件不動産の所有者は存在しない」ということを成約する確約書にサインをさせ、これをもって問題は解決済みとすることにいました。

これについて調査報告書はこれについて「これは詐欺犯に詐欺をしていないと確約させるもので、何の意味もない書面である」としています。

そして、これらの動きを妨害工作であるとして、取引を早めるため、土地の代金を急ぎで支払いうこととなりました。

つまり、物事が悪い方に動いたために支払いはさらに早められ、そのため地面師の目的は、早々に達成されることとなったのです。

積水ハウスの取引の不自然な点

ここまででおかしな点を再度まとめてみましょう。

・最初の本人確認が不十分なまま取引が始まった

・仲介会社IKUTA HOLDINGSが、取引の途中に社名を変更

・本物の所有者からの連絡が無視され、実効性のないサインで確認が終了

・問題が起こっているのにかかわらず、支払いが早められるなど取引が急がれた

一つだけなら、過失というのもありですが、ずさんというのもあまりにも奇妙です。

「慎重さを欠いた」というのは、本来過失に当てられるべき表現ですが、この場合は過失ではなくて故意だった可能性があるのではないか。

それが、報告書の指し示している最大の指摘であり、積水ハウスの経営陣が隠したい理由もそこにあるのではないでしょうか。

報告書を読めば、誰でもがそのような答えに行きつくと思われるのです。

積水ハウスの代金支払時にも不審

さて、さらにそこからです。この話も私が今回初めて目にする話です。

積水ハウスが土地の代金を支払う時、取引の最も大切な最終局面です。

そこで下のようなハプニングが起こったのです。

支払いは送金でなく小切手

積水ハウスは、この取引を預金小切手で支払ったわけですが、これも通常は行われない支払い方法でした。

数十億円の取引ですので、銀行間で送金するところを、積水ハウスは小切手支払いとし、手付その他を差し引いた49億円分をIKUTAの代表に渡します。

そして、その取引の会談の最中に、五反田の旅館に入った積水ハウスの従業員から電話が入ったというのです。

敷地内の建物に入ったところ、本物の所有者が設置した防犯ブザーが鳴って警察が来てしまった。

それを現地の従業員が、会社に伝えてきたわけですが、積水ハウスはそのまま小切手をIKUTAと偽物の女将である羽毛田に手渡しました。

調査報告書はここで、土地の所有者である女将、仲介したIKUTAが揃っているのならなぜ、小切手をいったん回収し、「五反田の現場に向かわなかったのか」と指弾しています。

「変だと思わない方がおかしい」ということなのですが、取引の最初から最後までこの「変だと思うべきなのに話が進められている」ということが、この一連の事件のおかしなところなのです。

どうしてなのか。それは取引の相手、つまり積水ハウス側の当事者が、最初から変だと思わなかった、つまり変であって当然だと知っていたからです。

積水ハウス地面師事件の盲点

誰が見ても明らかな話--このような話には盲点があります。

この話で最初から言われている疑問は、「なぜ、地面師の詐欺に積水ハウスが騙されたのか」ということです。

この文言は、地面師というのが技術を持ったプロフェッショナルな詐欺集団であるということが前提です。

「積水ハウスが騙されるほどだから、地面師はすごい」、そういう結論で最初から物事を見られているのです。

地面師は決して鼠小僧のような正義の味方ではありませんで、彼ら自身の利益のために詐欺をしているのですが、小集団に大企業が騙されるという構図に、我々の側がどこか溜飲が下がる部分があるのでしょう。

多少なりとも私たちの側も「地面師がすごい」と思い込みたがっているため、さらに物事が歪んで見えるともいえそうです。

「積水ハウスvs地面師」の構図を離れて物事を見てみましょう。

一連の報道はいつも「積水ハウスが騙された」という記述によって伝えられています。そしてそれに「なぜ?」がつく。

その「なぜ」の命題の方にポイントがあるわけですが、そうではありません。そもそも積水ハウスは騙されてはいなかったのではないか。

そうなれば、「なぜ」という疑問も最初からないのです。

積水ハウスが、偽物の所有者から喜んで土地を買ったというのが、起こったことの事実だったとすれば、どうでしょうか。

「まさか、そんなことはありえない」

皆さまはそう思うかもしれません。そして、そう思うからこそ、この取引は成り立ったのです。

少なくても、土地の取引を進めた人物は、これが虚偽の取引だと知っていた。

積水ハウスはそれを知らずに、ただ、土地を買ったというだけです。「騙された」というのは単に振り返っての結果でだったというのなら、その方がはるかにはっきりと話の辻褄はつくのです。

地面師事件その後

この地面師事件、今はどうなったのか。

土地取引を持ち込んだIKUTAのオーナーは逮捕されましたが、他に名前の出た多くの地面師と同様、不起訴となりました。

IKUTAが受け取った仲介料の10億円は、そのままになっています。

そしてカミンスカス被告らの公判はまだ始まっていません。

海喜館の土地は、この問題で世間が大騒ぎをしている間に、オーナーが旭化成レジデンシャルに売却成立、物事は一見沈静化したかに見えています。

積水ハウス内部で”クーデター”

そして、積水ハウス内部では”クーデター”と呼ばれる次の事態が起きました。

土地取引が成立した時の社長であった、阿部俊則会長に、責任を取らせようとして辞任を求めた和田勇会長、これが今回の調査報告書を作らせた本人でしたが、逆に和田会長が退任させられ、阿部社長が会長となったのです。

責任を取るべき人物が会長である以上、この事件の責任を追及するということ自体があり得ないこととなりました。

そのため、報告書は公開されず、何ごともなかったかのように、今に至っているのです。

(文中のソースは週刊東洋経済10月19日号より)

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