地面師事件の責任をめぐり、積水ハウスの元社長が裁判を起こされているそうです。
住宅メーカー大手の積水ハウスが、地面師と言われる土地取り引きの詐欺グループに55億円をだまし取られた事件、主要な容疑者は逮捕されましたが、裁判の行方はどうなるのでしょうか。
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積水ハウス地面師事件から1年
地面師事件が発覚したのは約1年前、西五反田の旅館跡地の所有者に63億円を支払って、買い取ったかに見えた土地は、実は所有者ではない相手に、巨額のお金をただ渡しただけでした。
譲り受けたと思った土地に建つ旧旅館の建屋に、積水ハウスの社員が入った途端、警報ベルが鳴り、駆け付ける警察官。
一体どういうことなのか。驚きからやがて事態を理解する社員たち。騙されたとわかった時の打撃は、どれほどだったでしょうか。
積水ハウスは業績悪化
その悪夢のような事件から1年、積水ハウスは、営業利益、経常利益、純利益どれもが19年1月期決算では減益。
戸建、賃貸、分譲、マンションの主要4事業二桁の営業減益、国際事業にいたっては同45%減という結果となりました。
保有する不動産を売却して業績回復
そして、積水ハウスはその後、保有する不動産物件を売却。
高級ホテルのリッツ・カールトン京都の信託受託権の40%を、同社がスポンサーとなっているリート法人に178億円で売却。
総理官邸に隣接する一等地にあり、東京メトロの溜池山王駅に直結する国際赤坂ビルを400億円で売却。
それらの物件を売却することで、『都市再開発事業』の営業利益は、約404億円という好業績に転じ、地面師事件以後の低迷を免れたということのようです。
積水ハウス内での裁判
一方で、地面師事件の責任をめぐっての株主代表訴訟が進行しているというのは驚きでした。
元社長である、阿部俊則現会長と、当時副社長で最高財務責任者(CFO)だった稲垣士郎現副会長に、損害賠償を求める裁判が行われているといいます。
原告の株主は、地面師事件の損失について阿部会長と稲垣副会長の、善管注意義務・忠実義務違反を主張。被害と同額の55億5900万円の損害賠償金などの支払いを求めているというのです。
地面師事件でだまし取られた金額は約55億、それと同じ金額を、会長と副会長に負担せよということらしいのです。
大手が「騙される」奇妙と内通者説
この地面師事件、積水ハウスはどうも通常の取引での「騙された」とは違うようだということは以前から言われていました。
そもそも、この前に複数の会社が地面師に話を持ち掛けられていますが、そのいずれもが、地面師による虚偽の取引だということが、すぐに判明し、契約には至っていません。
積水ハウスほどの大手がなぜ騙されてしまったのか。あまりにも間抜けではないか、と言われてきましたが、通常ではあり得ないことでした。
そのあり得ないことの数々を上げると、まずは、63億円というひじょうに高額での土地取引なのに、短期間で契約まで話が進んでしまったということ。
そこには、社長の決断という、有無を言わさぬ強硬手段が介在したこと。
仲介業者である、地面師の一人、生田剛の会社が、契約直前に変更になったということ。
そして、途中で、海喜館の真の所有者が再三に渡って、「土地は売っていない」ことを忠告したにもかかわらず、それが一切反映しなかったこと…これらは、いったい何を物語るものなのでしょうか。
積水ハウス内に内通者説
また、積水ハウス内に内通者がいたということもいわれています。しかし、63億の土地取引です。通常の意味での「内通者」程度でしたら、それが通るとも思えません。
単なる間抜けや杜撰では言い切れないものがあり、大企業が地面師ごときに騙されたということ、それ自体が大きな「謎」なのです。
積水ハウスの「調査報告書」
積水ハウスには、その次第を社内で調査し、記録に記した「調査報告書」というものがあると言われてきました。
積水ハウスの前会長である和田勇氏が、事件の全容解明を目的に作成を命じたものです。
ところが、調査報告書が昨年1月に取締役会に提出されると、現在訴えられている阿部会長が「クーデター」、とあるのは、突如反旗を翻したということでしょうか。調査報告書を作成した和田氏は失脚。
おそらくは、現在の阿部会長にとって、都合の悪いことが書かれていたからだろうと容易に推測できます。
「調査報告書」は非公開のまま
そして、当然、阿部会長率いる積水ハウスは、その調査報告書の公表をせず、裁判においても部分公開にとどまり、そのためか、事件の全容が伝わってこないままとなっています。
週刊現代の記者は、この調査報告書を手元に入手したといいます。
地面師事件「調査報告書」の内容
そこにはいったい何が書かれていたのか、というと、今のところ、伝えられているのは2点です。
ひとつは、阿部氏が、仲介会社である生田の会社が契約前に変更になったことに、疑いをさしはさまなかったということ。
当然、疑ってもいいというところを疑わなかったというのは、確かに妙です。
そしてもう一つ、きわめつけは、海喜館の所有者から、内容証明便が4通届いたことを、担当者たちは〈怪文書の類〉と判断。
偽の所有者本人に「確約書」に署名押印させたとあります。
戸籍謄本や、羽毛田正美被告が紛失したと契約時に話した登記簿謄本などの確認をしようとはしなかったこともおかしなことながら、さらに
「当時のマンション事業本部長が〈物事の鎮静化のやり方として、例えば、決済時期を前倒しにするということも考えられる〉として、〈決済日を7月31日から6月1日に変更〉する方針を決定」 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/63695
どういうことかというと、所有者を装った人物から、この土地取引は無効とする怪文書が繰り返し届いている。それを避けるには、早く売買計画を完了するのがいいとして、支払いを2カ月近く早めることにしたということなのです。
結果、今現在、注意を怠ったとして株主から訴えられている阿部会長が契約を完遂。
その契約にいたる不審な点の調査を進めた和田氏が失脚。
和田氏が作成した「調査報告書」は、阿部氏が会長を務める積水ハウスは公表しようとせず、裁判でも部分的にしか提示されないとのことなのです。
損害賠償金が55億円の一致には意味が?
この場合、阿部会長は、単に「注意義務を欠いた」ということなのでしょうか。
それはともかくとして、その損害賠償金の金額がなぜ、「55億5900万円」なのでしょう。
これでは、まるで土地の代金を返せと、阿部氏が言われているようにも思えます。もちろん、訴えている株主にしてみれば、単に被害額を補償しろということなのでしょう。
しかしながら、積水ハウスの中に現存しながら、未だに「封印」されたままの調査報告書の中には、何が書かれているのか。
積水ハウス側は「2018年1月24日付調査報告書は、社内調査を目的として作成されたものであるため、公開いたしません。調査報告書に関連するその他の個別質問についても回答は差し控えさせていただきます」としているそうです。
残念ながら、現時点ではこれ以上のことはわかりません。次なる解明を待つばかりです。