スマートデイズ社運営の女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」の投資者オーナーらに不正な融資をしたとして、金融庁に行政処分命令を下されたスルガ銀行が、昨年の12月27日、創業家の岡野光喜元会長ら旧経営陣を追加で提訴することとなりました。
今回の提訴の理由は、岡野家のファミリー企業間で「寄付」の名目での資金調達があったなどが判明したためです、その際の資金の流れはどういうものだったのか。毎日新聞のプレミア記事を元にお伝えします。
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スルガ銀行からの借入金1208億円
外部弁護士らの取締役等責任調査委員会が18年の年末に公表した調査報告書によると、スルガ銀行の創業家・岡野一族が実権を握るファミリー企業は、バブル崩壊後の金融危機の最終局面だった2002年時点で、同行からの借入金1208億円を抱えて行き詰まっていたといいます。
岡野ファミリー企業、借入の原因は
岡野家のファミリー企業が借入金を膨らませた原因はというと、事業がらみの借金、それと銀行の益出しというものです。
クレマチスの丘の美術館事情で借金
https://www.bs11.jp/education/japanese-museums/岡野家ファミリー企業は、スルガ銀行から融資を受け静岡県長泉町で大規模な宅地開発を進めていました。
広大な敷地に、豪華な美術館複数が建設され、ベルナール・ビュッフェをはじめとする高価な美術品が購入され、「迎賓館」と呼ばれる別荘も建てられていました。しかし、その美術館事業の実態は赤字だったのです。
銀行の“益出し(えきだし)”
https://www.bs11.jp/education/japanese-museums/もう一つは、バブル崩壊で打撃を受けた銀行の“益出し(えきだし)”と呼ばれる利益操作の道具として使われたことがあげられています。
「益出し」とは初めて聞く言葉ですが、銀行が利益を出す目的で、銀行が保有する支店などの不動産や美術品をファミリー企業が相次いで購入。
代金はスルガ銀行が融資し、結局ファミリー企業の借入金はますます膨れ上がるものとなったようです。
文化事業の象徴だったクレマチスの丘と美術館
スルガ銀行は02年以降、ファミリー企業の改善計画を立て、融資回収・残高圧縮を進め、18年3月末時点で、融資額は488億円に減少。その間も、銀行とファミリー企業との間では不正な資金のやり取りが続いていたといいます。
その一つが今回の訴訟の要因となった、「寄付金」の問題です。
「ベルナール・ビュフェ美術館」に寄付
https://www.bs11.jp/education/japanese-museums/第1の不正は、岡野光喜・スルガ銀行前会長が理事長を務める財団法人「ベルナール・ビュフェ美術館」に寄付したお金の横流しを調査委員会が挙げました。
この美術館は戦後フランスを代表する画家、ビュフェの収集・展示で知られ、スルガ銀行と岡野家の文化事業の象徴でした。
https://www.bs11.jp/education/japanese-museums/岡野光喜前会長の父、岡野喜一郎氏が始めたところで、岡野家の「聖地」といわれる象徴的なところで、この土地だけでは岡野家は手放さないだろうと言われているところです。
スルガ銀行の寄付金
https://www.bs11.jp/education/japanese-museums/スルガ銀行は12~17年の6年間に15回にわたって総額64億円を美術館に寄付。
うち47億円が、美術品や不動産の購入名目でファミリー企業に支払われました。
しかし、そのうち38億円がスルガ銀行への借金返済に充てられたといいます。
美術品選定に美術館は関与せず、名目は社会貢献だが、ファミリー企業の借金返済や資金融通が目的だったといいます。
実行したのは岡野喜之助副社長
こうした資金の流れは、岡野前会長の実弟の喜之助氏である、元スルガ銀行副社長が銀行の幹部と相談して実行したとされています。喜之助氏は16年に亡くなっていますので、実際に話が聞けないのが残念です。
岡野前会長は調査委員会の聴取に対して「資金の流れは知らない」と述べたが、実態を知りうる立場にあったとも言われています(毎日新聞プレミア)。
第三者委員会の調査においては、岡野光喜前会長を含めて、その関与は「雲の上から見ていた」と表現されており、いまいち関与が不明なままになっています。
勝手に担保を解除
第2の不正は、15年に喜之助氏らの主導で行われた自社株買いをめぐるものでスルガ銀行は、143億円を融資していたファミリー企業2社から、同行の株式596万株を購入し、146億円を支払いしました。
株式の一部は担保になっており本来は融資を回収すべきだが、勝手に担保を外し、回収したのは21億円のみで、ファミリー企業はこのとき、別の借入先に100億円を返済。
わかりにくい流れですが、報告書は、自社株買いはこの借入先への返済が目的だったと指摘しています。
毎日新聞はこれを「ファミリー企業を通じた『銀行の私物化』」と表現する通り、銀行がある限り、資金の融通は思いのままであり、借金は借金ではなくなりました。
ファミリー企業の社員は銀行OB
ファミリー企業のほとんどは従業員は10人未満、親族やスルガ銀行OBが役員や従業員になっていたといい、まさに「ファミリー」。そして、もちろん、スルガ銀行の役員は、ファミリー企業への資金流出に疑問をさしはさむものはおらず、それが、今回のシェアハウス投資の一件で初めて明らかになったのです。
銀行から融資を受けるときに、その銀行がどういう銀行か役員がどういう人かなどと考える人はほとんどいないでしょう。シェアハウスの融資の際に「スルガ銀行が融資するのだから」と、銀行名を盾に太鼓判を押した不動産業者も、もちろん内実がどうなっているのかなどは、つゆほども知らなかったに違いありません。
優等生呼ばわりをしていた金融庁は、この事実を何と考えるのでしょうか。
銀行の保有財産については考えの及ぶところではないわれわれもまた、何を信じたらいいのか。
銀行に関わらず、目先の数字や華やかさにもわからないこともあるのだと、自戒するのみです。