シェアハウス不正融資問題で、スルガ銀行は、一部業務停止命令後、融資契約は1件もなし、その上、1700億円もの預金が流出、経営悪化どころか、銀行として存続できるのか、周囲からは倒産も懸念される事態となっているようです。
スルガ銀行の不正と、銀行の内情に関わる調査報告書をまとめた第三者委員会の中村直人弁護士が、毎日新聞のインタビューに答えたものがプレミア記事で紹介されました。3回に渡るインタビュー内容の要旨をまとめてご紹介します。
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スルガ銀行第三者委員会 中村直人弁護士のインタビュー
毎日新聞のプレミア記事で、3回に渡る中村直人弁護士のインタビューが掲載されました。
中村弁護士は、スルガ銀行の第三者委員会で委員長として、調査に当たり、調査報告書を作成されており、直接スルガ銀行の内情にもふれられた方です。
スルガ銀行で不正が広がった理由
中村弁護士は不正が広がった理由について、書類の偽造は普通はこっそりやるものだった。これが組織全体に広がってしまったのは、皆が「組織がそれを認めてる」と思ってしまったことがいちばん大きいと話します。
特に、過剰なパワハラがそれを促進したということを、理由の第一に挙げています。
例えば誰かが悪いことして営業成績を上げているのを見ると、「支店長は知ってるはずだ」と思います。ですが支店長は何も言わず毎月「もっとローンをつけてこい」と言ってくる。すると「支店長もグルなんだな」と思う。
スルガ銀行の不正については、「不正に全く関わっていない社員はいない」と言われていました。
社内で当然の雰囲気ができてしまったことは、きわめて不思議ですが、それが蔓延していたのです。
不正をしなければ達成できないノルマ
強烈な営業推進もありました。例えば営業担当が「月に10億円ローンを積んでこい」って言われるんです。不動産投資ローンは1件1億円ぐらいですから、月に10件のノルマです。
行員さんがお客さんを100件回って1件当たるかどうかですよ。真面目にやると全く達成できない。
つまり、あのノルマは不動産業者とグルになって、業者から融資相手を紹介してもらわないと達成できるはずがないんです。
中村氏のいうのは、「パワハラがあったから、やむを得ずやった」ということではなくて、パワハラにおいて、どう考えても無理な要求がある、するとそれを「不正をしてもいい」と暗に言われていると思ってしまったという意味合いです。
このような行員の微妙な心理に言及しているところは、興味深いところです。
スルガの社員は、書類の改ざんを行ったわけですが、業者からマージンを受け取ったという例は、限定した社員にしか発見されなかった。基本的に、個人の利益がモチベーションではなかったといわれています。
スルガ銀行の「刹那的な価値観」
営業と審査部の力関係の逆転については、中村氏は「融資の審査期間が1週間と短い。普通の銀行は1カ月以上かける」ことを述べて、スルガ銀行は「積み上げればいいというだけの発想」だったと言っています。その後どうなるということは、全く考えていないということです。
本来融資というのは、多額のお金を相手方に支払うことなので、契約と顧客が増えても、銀行が即座にもうかることではない。
それが利益となって還元されるのには、「20年から30年の間、毎月金利を納めてもらって初めて銀行の収入になる」。
ところが、シェアハウスの融資は、シェアハウス業者が2~3年で家賃保証を購入者に支払えなくなり破綻するモデルなんです。銀行の収支も破綻してしまう。それをやっていたのがこの銀行の一番変なところです。
これを中村氏は「刹那的な価値観」と述べています。
とにかく、従来の審査では決して許可をしない客にも、どんどん融資をしてしまった。1人につき1億円前後です。それが1000人規模なのが、シェアハウス投資です。
ただし、銀行として、それが回収できないかというと、関係者に言わせるとそれはない、建物という担保もあり、顧客本人の他、保証人、通常は「信用保証協会」というところを保証人としているので、銀行は、実際には取りはぐれるということはないのだそうですが。
スルガ銀行の信頼回復への道
中村氏に聞きたいことは、やはり、スルガ銀行がこの先どうなるのか、どうするべきかということです。
岡野家の排除と提携先が必須
スルガ銀行の信頼回復については、「不正に関わったのは100人を超え、創業家排除と経営陣の入れ替えで再出発するしかない」、そして、やはり「新しいスポンサー探しが必要」とのことです。
これについては、金融庁がさまざまなところに打診を行っており、一時は新生銀行が名乗りを上げたという報道もありました。
今のところはまだその話も進展がありませんが、やはりどこかと提携するということ、そして、それ以前に、今後の経営に口を出して、やりにくいことにならないように、岡野一族とその関係者は退くしかないという見方が大半です。
岡野家ファミリー企業との関連性が不透明
しかし、スルガ銀行は自分の銀行だとしてこれまでやってきた岡野一族は、銀行を手放すのか。
このあたりもインタビューアーが「排除が具体的に進んでいるとは思えない」といいます。
その一つは、資金の流れを形作った銀行とファミリー企業の関連性が不透明のままになっているということがありそうです。
シェアハウス問題とは別問題なので未調査
これについては、中村委員長は、シェアハウス問題が目的の短期の報告書作成においては、調査対象からは外れてしまう、また、年単位の調査となってしまうということで、それについては行わなかったと述べています。
現在でも、調査は引き続いて行われているわけですが、結局「限界がある」ということで、それ以上の報告はなされておりません。
つまりは、創業家のファミリー企業と銀行との関係が残ったままとなっているということで、その状態が続く限りは、提携はなく、スルガ銀行の再生も進まないことになります。
岡野前会長の責任の証拠となる書面が残っていない
インタビューでもっとも核心を突く質問は、岡野光喜会長が「知らなかったではすまされないのではないか」という問いでした。
実際に調査に関わった中村氏は、それについて次のように
証拠という面でいうと、2016年に亡くなられた前会長の弟の副社長がすべて握っていて残っていないんです。副社長から前会長のところにいろいろな報告が行っているはずなんですが。
スルガ銀行の場合、議事録とか報告とかをきちんと記録に残していないこともありました。探したのですが、出てこなかったのは本当に残念でした。
岡野家とその責任についての調査は、「取締役等責任調査委員会」というところが引き継いで行ったわけですが、これについては、 ファミリー企業に関する調査の責任者を務めた片岡義広弁護士は記者会見で
と述べています。「違法とはわからなかった」と述べればそれまでなのでしょう。
インタビューを読み終えて
インタビューの最後は、銀行組織内部の不正を撤廃する方法として、内部通報の重要性、匿名での通報でも有益、そして、もう一つは、組織の内部だけではなく、監査に役立つ社外役員の役割についても、中村弁護士からの助言がありました。
読み終えて思うのは、スルガ銀行の再生には、やはり、創業家の排除と、新しい提携先が欠かせないということです。
前者が成り立たないと後者は決まらない。今はまだその途上の状態ですが、というより、それ以前に、これだけの問題になってしまったのに、なぜ核心と言うべき部分が「わからない」でうやむやになってしまっているのか。
多くの人が、未だ歯がゆい思いを抱いたままと思われます。特に、被害者の方々にとっては、銀行自体の立て直しよりも、一日も早い解決が望まれるところでしょう。