シェアハウス投資をめぐる報道で、関係者への独自取材を続けた朝日新聞は、他紙に抜きん出てキャッチした新情報の開示を行ってきました。それらの記事を執筆した藤田知也記者が、何ら責任を問われないままの不動産業者と、スルガ銀行で不正な融資を行った役員らの刑事責任と処分に疑問を述べています。その内容をご紹介します。
スポンサーリンク
シェアハウス投資不正な融資のスルガ銀行の「処分」
スルガ銀行は11月30日に業務改善計画を公表。また、創業家である、元岡野会長を含めて現旧役員9人に対しては、総額35億円の損害賠償請求が静岡地裁に提訴されました。
他に、執行役員12人を含む計117人の行員には降格や減給などの懲戒処分が下されました。しかし、当初言われていた刑事責任は問われないままになっています。
元東京地検検事の落合洋司氏「刑事告発も」
元東京地検検事の落合洋司氏は、スルガ銀行員らの刑事告発について、下のように語っていました。
第三者委が認定した不正行為だけでも、多くの行員が私文書偽造や詐欺、背任などの罪で刑事責任を問われる可能性がある。これから信用を回復していくには、まずは銀行が率先して責任追及する姿勢を示し、刑事告訴や告発にも踏みだすべきだ。スルガ銀が捜査に非協力的なようだと、構図が複雑なだけに事件化が難しくなるおそれがある。
スルガ銀行員の刑事責任は?
その理由は、不正が「組織的」だったこと。そのため、個人レベルでの社員の個々の責任は問われないということらしいのです。
有国三知男社長によると、個々の行員については「(貯蓄や年収の水増しに直接関与した事例は)確認できなかった」という報告で終わっています。
また、既に退職済みの行員については、懲戒という最も重い処分措置は届かないものとなります。
謝礼を受け取ったスルガ銀行員も
藤田記者によると
これまでの取材では、業者が偽造した預金通帳を添削し、修正を求めて出し直させる行員が複数いた。オーナー弁護団からは、通帳を偽造できる業者を紹介する行員との会話を録音した音声データが公開された。証拠まではつかめないものの、業者から100万円単位の謝礼を受け取っていた行員がいる、との情報もある。
つまり、組織としての処分は行われたが、それらの行員の行為について、罪には問われないのか、ということには疑問が残るということです。
スルガ銀行の懲戒事由は甘い気がしないでもないが、不正への関与が組織的だったと認定された銀行自身が今期決算で1000億円規模の赤字を計上することを考えれば、相応のしっぺ返しを受けていると評価することもできなくはない。
しかし、実際に被害にあった利用者にしてみれば、やはり顔を合わせていた個々の社員が、自分の融資に関して謝礼を受け取っていたのかどうなのか、というのは知りたいところではなかったのでしょうか。
銀行全体としてはともかく、そこはやはり個人としてのモラルを問いたいところでしょう。
「シェアハウス投資」の不動産業者の処分は?
スルガ銀行については、要するに処分が甘いとは思われるが、不十分ではあっても断罪はされたとも言えなくはありません。
しかし、それ以上に問題とされるところが、シェアハウス投資に関わった不動産業者についてです。
「不動産行政の怠慢ぶりを告発」
シェアハウス投資に関与した不動産業者、そして、それらに対する行政の対処については、藤田記者は舌鋒鋭く「告発」という言葉で次のように、コラムの最初に次のように記しています。
その裏で不正の実行役として暴利を貪りながら、お咎めをまったく受けない不動産業者たちがいる。スルガ銀行の不正融資をスクープしてきた新聞記者が、悪徳業者を”野放し”にしている不動産行政の怠慢ぶりを告発する。
不動産業者たちは、これまでのところ、誰も処分は受けていない。このままになってしまっていいのかという問題提起です。
シェアハウス投資の業者は100社以上
シェアハウス投資では、スルガ銀で融資を受けた1200人超の顧客のほとんどが預金通帳の写しなどの審査資料を改ざんされており、その販売にかかわった業者の数は100社を下らないそうです。
不動産業者の不正の内容
そしてそれらの業者が行ったことと言えば、預金通帳、ネットバンキング画面、源泉徴収票、確定申告書といった書類を偽造、現状の入居率や家賃を記した家賃収入表(レントロール)の改ざん、賃貸契約書の捏造と、改ざんや偽造を受けなかった書類を探すのが難しいくらい、手が入れられるものは、これでもかと都合よく作り替えられていたわけです。
行政は不動産業者に対して何もしないのか
しかし、不動産業者を監督する立場にある国土交通省や東京都は、それらの業者に関してはまったく手つかずなのです。スルガ銀行の「処分」の陰にあたかも隠れているかのように、行政は何もしていないのです。
その理由を求めて、藤田記者は関係者に直接取材をされたわけですが、東京都不動産業課は「通報や苦情が寄せられていない」国交省不動産業課は「個別の状況をみて必要に応じて判断する」。
あるいは、「不正の認定は難しく、慎重でなければならない」と言う担当者もいて、明かな業者の不正に対して動きを起こそうというところはないというのです。
シェアハウス投資の「黒幕」は逮捕されないのか
これでは行政処分を食らった上、業務改善計画を公表しているスルガ銀行がことごとく真面目に見えるくらいです。
そもそもが、シェアハウス投資は、かぼちゃの馬車運営のスマートデイズの実質経営者が最初から計画倒産をもくろんでいたという話もあります。
この人物はシェアハウスだけではなく、これまでも同様の手口で前科もあるそうです。
そして、スマートデイズだけではなく、ガヤルドについても、最初からか、あるいは、途中から倒産することを視野に入れていたのではないかという話も出ていました。
「詐欺」とも言われる業者の処分なし
それらの業者に対しての逮捕や、調査を経ての処分はないということは、部外者にとっては、全く腑に落ちないことです。
ここまで事件が公になったのに、なぜそれが、大元の業者に及ばないのか。
及ばないとすれば、いえ及ばなかったからこそ、そのような業者は、後を絶たずに、新しい被害を作り出してきたのに違いありません。
あるいは、その一つがスルガ銀行の不正であったのかもしれない。スルガ銀行の例が「氷山の一角」と言われる所以でしょう。
まとめ
これだけの騒ぎが起こって、被害者の数が膨大であると繰り返し報道されているにもかかわらず、明らかに非がある不動産業者に対しての処罰がないということは驚きです。
捜査の手も及ばない、こういった事態に巻き込まれることを避けるには、藤田記者の言うには、やはり「自衛」が必要だということに尽きます。
それから、被害にあって黙っているというのもいけません。やはり当局に向けて、無駄だと思っても引き続き訴えていくことも必要なことだと思います。
少なくてもそれらの声が大きくなれば、悪徳業者の抑制として無駄になることはないでしょう。